中学生の頃
クラスメートの高橋さんと学校からの帰り道。
街はキンモクセイの香りで溢れていた。
季節は秋そのもの
二人で「めっちゃ良い香りっ!」と、はしゃぎながら
スーハースーハーしながら歩いてたわけ。
高橋は、クラスで一番のお調子者で
「もうたまんないっ」とか言って
人んちのキンモクセイの木の壁に顔を突っ込んじゃったわけ。
「キンモクセイが、っんまいっ!」
「秋の味覚や~香りの宝石箱や~」とか言っちゃってさ。
私は私で、テンション最高潮!
中腰の高橋にカンチョーして、はしゃいでたわけ
最初は二人でゲラゲラ笑ってたんだけど
通行人がみんな振り返るから私も我に帰って
「ちょw、高橋。そろそろ顔抜いた良いって。。。」
「家の人に見つかったら怒られるから。。。」
「ねぇ?高橋聞いてる?」
「。。。。けない。」
え?
「枝に引っかかって抜けないの。。。。アゴが」
高橋はクラスで、というか学年で一番アゴが出てる子で。
そのアゴがカエシになってて引っ張っても抜けない状態。
引っ張ると
「痛いからっ!アハハじゃねぃからっ!痛いからっ!」
これだよ。。。。
なんかね。イモ貝の毒針みたく1回刺さったらもう抜けませんからーw。みたいな感じ。
(これ高橋の原理って言うからー。先生テストに出すからー。)
最終的になんとか抜けたんだけど
抜けた瞬間
待ってましたと言わんばかりに
「アンタ笑いすぎだしっ!」
「つーか、どさくさにまぎれてシャクレっつたし!」
と高橋怒っちゃっててね。
気まずい感じになったわけ。
最終的には歩きながら口論になっちゃって。
私も「高橋の自業自得じゃんっ!」ってムキになっちゃってたの。
そんな感じでワーワー言いながら歩いてたら
ウチらの横をオジさんがチャリで横切りながら
凄い音で舌うちしてきたの。
ウチらの事めっちゃくちゃ睨んで
思いっきり「チッ」ってさ。
私も高橋も気が立ってるから「何なの!?アレ?」ってなるじゃん?
そしたらそのオジさんウチらの10メートル先くらいでフッと止まって
振り返って「お前らケンカするんじゃないっ!このバカがっ!」つって
凄い剣幕で怒ってきたの。
ウチらもムカーっ!てなってさ。
そしてオジさん、
そのままウチらをずっーと睨んだまま前にチャリこぎ出したの。
ずっーと振り向いたままね。
そしたらさ。
そのまま川に落ちちゃったの。
チャリごとガシャーンってさ。
アーレーってさ。
もうね。ほんと綺麗な放物線を描いてた。
お見事っ!てくらい。
鳥人間コンテストで羽ばたくつもりが、ぜんぜん飛べずに落下する
一番残念なパターンのやつくらい。
いきなりの、状況にこっちも唖然として
とりあえず「えっ?ウチらのせいじゃないよね?」
って確認はしといた。
んでさ。
ほんっと申し訳ない。すごいイヤだけど
オジさんの状況を一応確認しに行ったの。
まずい事になってたらアレだから。
川幅もそんなに無く深さもない小さめの川。
水深も10センチくらいで
ウチらが駆け寄ってみると
濡れたオジサンは腰をさすりながら
「痛いでよぅ~」と繰り返し悶絶していた。
もうね。いろいろカオスすぎて
ウチらも何て声掛けていいか分かんない。
とりあえず5秒くらい見てた。
そこはさ
「なんだチィミはってか?そうです私が変なおじさんです。」
のパターンじゃね?と突っ込もうとしたんだけど。
とりあえず黙って10秒くらい見てた。
スーパーで買ってきたであろう
お惣菜が川に散乱して
川を汚すなよと思ったけど魚が食べてたからギリセーフ。
お風呂上りにお酒を飲みながら食べようとしてたのかな。
そう思うと切ないね。
ほんっと申し訳ない。すごくイヤだけど。
思い切って声をかけてみようと思ったのね。
川からチャリを引き上げるの手伝うし
何なら、ほんっとイヤだけど、オジさんも上がれるよう手を貸すし。
んで明らかに大丈夫じゃない人にこう言ったのね。
「大丈夫ですか?」って。
「。。。。。。。」
「あの大丈夫ですか?」
「。。。。。。。。。」
もうね。完全無視!
「べっ別にアンタたちの為に落ちたんじゃないんだかんねっ!」と
ツンデレではなかったみたい。
たぶんね。ウチらが居ないという設定にしたかったと思うんだ。
誰にも見られたくない瞬間ってあるじゃない?
はい。落ちましたー。腰痛めましたー。上がりましたー。帰りましたー。誰も見てませーん。
みたいなね。
ウチらも50回くらい「大丈夫ですか?」を連呼してたからね。
しつこすぎるくらい。
結局オジさんは川にボッコボコになったチャリとお惣菜を散らかしたまま
帰ったからね。
その間一度もウチらの事を見てないし。
居ない事になってるし。
まぁそんなこんなで
気が付いたら私と高橋はまたワイワイしながら帰ってたんだよね。
「さっきのオジさん何なのー♪」「イエーイw」みたいなね。
オジさんのダイブのおかげで
高橋の原理なんてすっかり忘れてさ。
そして最後、別れ際に高橋が言った。
「あのオジさんさ。。。ウチらの、わだかまりに突っ込んだ神風特攻隊だよね」
ドヤ顔で言った。高橋が。
その顔が今でも忘れられない。
キンモクセイの香りがすると必ず思い出す。
最近忙しいです。
増税の対応とまさかのインフルエンザにかかった先輩の穴埋めと
来月受ける会社の試験の勉強で。
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せーのでDIVE!
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